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 月曜日の朝が始まった。週末の出来事など思い出す間もないような朝の慌ただしさの中、バタバタとゴミを集め、自分の支度をして朝食を用意する。  やっと起きて来た健治と普段通りの挨拶をし、朝食を胃の中に流し込み、お互いの職場に向かう。  いつもの時間に家を出て電車に乗り、商店街を抜けて、病院の隣にある店舗のシャッターに鍵を差し込んだ。普段と変わらぬ日常が始まる。  さくら薬局と書かれた店舗のシャッターを開け、奥の事務所に行くと、指の指紋認証タイプのタイムカードで出勤を本社に伝える。  メールのチェックを終える頃、出勤してきた里美と「おはようございます」と挨拶をすれば、仕事の顔になる。  薬剤師はミスの許されない職業だ。私も里美も無駄なおしゃべりをすることなく、仕事に取組み、お昼休みを迎えた。 「小松さん、薬を買いたいので確認お願いします」  伝票と薬とお金を並べ、里美に確認を求める。職場で自分の分の薬を買う時は、お互いでチェックし合いミスの無い様に確認のち会計をしている。  里美は、私が購入しようとした低用量ピルを見て、一瞬、顔をゆがめ小さな声で「合っています」と言った。  低用量ピルは、避妊目的だけでなく、月経のコントロールでも処方されている立派な医薬品だ。里美だって承知しているはずなのに……。  そんな里美の様子を見て土曜の夜の記憶がよみがえる。  健治に裏切られ、ぽっかり空いた心の穴にするりと入って来た里美。  女同士の甘い香りに包まれた蠱惑的な夜。知らない感覚に惑わされた。 「先輩」
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