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「鰈の煮付け良い味だよ。美緒の料理は上手いよな」  と言われても自分には味など感じられなかった。  言わないと……。  元カノと一緒にいる所を見たんだよ。  ホテルから出て来たでしょう。  私の事をどう思っているの?  何で私と結婚したの?  聞かなくちゃ……。    グルグルとその事に意識が囚われている。   「なあ、美緒」  不意に呼ばれ、意識が引き戻された。  心臓の鼓動が早く動き出し、汗ばんだ手のひらを膝の上でギュッと握りしめる。 「何?」 「相談があるんだけど……」 「何? 改まって」 「あのな……」  自分から言えない癖に、健治のこの先の言葉を聞くのが怖い。  恐る恐る顔を上げると、優しく微笑む健治の姿が瞳に映る。 「週末の金曜日、お前の誕生日だろ。ちょっと良いお店で食事しようよ」 「……えっ?」 「だから、美緒の誕生日にお店予約したんだ。予定空けておけよ」 「ありがとう……」    自分が考えていた事と健治の話す内容があまりにも合致しなくて、毒気を抜かれたように頷いてしまった。てっきり、別れ話をされるのかと思って身構えていたのに予想外の内容。  よく考えれば、浮気がバレたとは思っていない健治から、別れ話など出る筈もなかったのだ。
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