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「あっ、健治……」 「ごめん、美緒がかわいかったから抑えきれなかった。中に出しちゃったけど、そろそろ子供もいいだろう?」  健治の言葉に心がざわつく。 「お風呂、入ろうな」  健治が、脱ぎ散らかした服を拾い、私の肩にフワリとかけ、手を差し出だされた。  だけど、その手を取る気持ちになれず、俯いたままでいると、気遣うように覗き込こまれる。 「大丈夫か?」   「こども……」 「ん?」 「子供が欲しいなら浮気しないで……」  ここまで言うと言葉に詰まり、上手くしゃべれない気持ちの代わりにハラハラと涙がこぼれた。  そんな私を健治の腕が優しく包み込む。 「避妊しなかったの悪かったよ。ごめん、泣くなよ。美緒、愛しているよ」    健治は返事にならない返事を囁いた後、泣きじゃくる私の背中を子供をあやすかのように擦り慰めた。  優しくされるとわからなくなる。  健治が一番好きなのは、私だと信じたくなってしまう。体を繋げることで情も深くなり、その温もりを失いたくないという気持ちになる。  この先を聞くのが怖い。聞いたら終わりになるかも知れない。  ”子供がいないうちは、やり直ししやすいかもよ。良く考えなさい”と言った母の言葉を思い出す。  健治に抱きしめられて、温もりに包まれていると、失う事が怖くてこれ以上踏み出せずない。  今は、ただ力なく、立ちすくむだけだった。  
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