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 翌朝、店舗のシャッターを開けた。奥の事務所に行き、指の指紋認証タイプのタイムカードで出勤を本社に伝え、メールのチェックをする。それを終えると調剤室に行き、ある薬を取り出す。PCで薬価を調べ、伝票を作り自分の財布から代金分のお金を取り出し、トレーの上に並べる。  作業台の上に置かれた。緊急避妊用のピル。  出来る事ならコッソリとお金を払い、さっさと飲んでしまいたい。  でも、店舗の管理責任者として、ルールは順守しないと示しがつかない。  ふーっと息を吐き出して、天井を仰ぎ目を瞑ると、昨日の愚かな自分を思い出す。  買ったばかりの低用量ピルも服用していないうちに、よりにもよってキッチンで、行為をした挙句にこの事態。  本当に情けなくなくなる。  扉の開く音がした。せめて里美以外のメンバーである事を願ったが、「おはようございます」と聞こえた声は、紛れもなく里美だった。 「おはよう。出勤付けたら悪いけど、薬を買いたいので確認お願いします」   「はーい、今、行きまーす」    いつもと変わらない様子の明るい声が返ってくる。 「朝からごめんね」 「具合でも悪いんですか? せんぱ……」    里美の視線が作業台の上に置かれている薬に注がれて、その表情が消えた。そして、キッと私に顔を向けた。   「何やっているんですか!」    私を見つめる里美の瞳がだんだんと揺れ始め、ポタリと涙がこぼれ落ちる。
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