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「先輩、分かっているんですか? 先輩は、旦那さんに裏切られているんですよ。泣いていたじゃないですか! それなのに……」 「ごめん」 「しっかりして下さい。浮気するような旦那さんで、先輩は幸せになれるんですか?」 「ごめん」 「受け入れちゃダメですよ。先輩は自分の旦那さんが浮気していてもいいんですか?」  浮気されていい訳など無い。でも、好きという気持ちが、急に消え去るものでもない。自分でもどうしていいのかわからないのだ。  返す言葉も見つからず、ただ、唇を噛みしめて、うつむいた。 「先輩。それ、早く飲んでください。赤ちゃん出来たら別れられなくなりますよ。先輩の事だから子供から父親を奪うのは可哀想だって、浮気されても我慢していくの目に見えてます。さっ、それ飲んで仕事しましょう。患者さん来ちゃいますよ」 「ごめん……」    そう言って、ヒートから薬を取り出した。  ミネラルウォーターで薬を口に含む。それを飲み込むと、冷たい水と共に胃の中に落ちていく。 「さっ、仕事しましょ! 事務の人達、もうすぐ来ますよ」 「ん、仕事しないとね」  カラ元気で答え、業務に入ると時間は瞬く間に過ぎていく。  仕事をしながら、里美に言われた事を思い起こしてしまう。  里美に言われた事は、正しいけれど、愛情、未練、過去の思い出が、私を立ち止まらせて動けなくする。    でも、緊急避妊ピルを服用しようと思ったのは、健治の子供を産むのが怖ったからだ。  そう考えてしまうのは、健治との未来を望んでいないのかもしれない。  
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