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里美は、場を取り繕うように笑顔を浮かべる。 「先輩、お酒を飲んではしゃぎましょう」  そう言って、新しい缶チューハイをプシュッと開け、コップに注ぎ足した。  気まずさを薙ぎ払うかのように、私は注がれたチューハイをグイっと煽ると、頭がフワフワとしてくる。 「イケますねー。先輩、ままっ、おひとつ」 「おねえさん、気が利くねぇ」  里美は、TVコントの再現よろしく、ふざけながらチューハイを注ぐ。  そして、私も調子に乗って、コップに注がれた分を飲んでしまう。  酔いも深くなり始めた頃、心の底にあったモノが、口からこぼれた。 「浮気現場見ちゃった」 「先輩……」   「健治の浮気現場、見ちゃった」  お酒の酔いも手伝って、ハラハラと涙があふれ出した。  後輩の前で泣くつもりなんて無かったのに、涙腺が壊れたかのように涙が頬を濡らす。そして、心の奥にあった黒い気持ちを吐き出した。 「私の何が足りなかったんだろう。仕事で疲れていても家事も一生懸命やったのに……」 「泣かないでください。先輩のせいじゃありません。浮気した方が悪いんです」 「私、あの人みたいに綺麗じゃないし、きっと、健治にとっては家政婦替わりの都合のいい女だったんだ」  夫である健治を信じていたし、愛していた。その信頼を裏切られたかと思うと悔しいのと悲しいのが、心の中で入り乱れ、涙となって流れ落ちる。  そして、健治と果歩の様子を思い返すと、夫婦として永遠の愛を誓った事が、幻となって消えて行くように感じられた。
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