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 里美の心配が杞憂に終わるほど、その夜も次の夜も健治の帰りは遅く、私が就寝した後に帰って来る日々が続いた。そして、朝になると慌しさ中で、顔を合わせるだけのサイクル。  良い事も悪い事も、何も無い状態だ。    自宅ヘの帰りが遅い健治。仕事で接待をしているのか、元カノの野々宮果歩に会っているのか、分からないまま、ゆっくり会話をする時間も取れずに、問題を先送りにしている。  夜、一人でベッドへ入ると、隣の空いたベッドが気になった。今、この時間にも健治と果歩がどこかのホテルで抱き合い、お互いの熱を感じているのかと思うと胸の奥が重くなる。    優しく甘い言葉を投げかけてくれる健治が、浮気をしているなんて今まで考えた事もなかった。  接待の名目で、女性のいるお店に行く事も良くあるだろうと、甘い香りを身に着けて帰って来ても、気にしないようにしていた。  色恋に疎い女はさぞかし扱い易かっただろう。  健治は、果歩とベッドで戯れ、彼女の全てを今も知っているんだ。  映画女優のように綺麗な果歩の細い腰を抱き、あの胸に……。  健治は、私の事が1番好きと言っていたけれど、男性経験もなく、地味な私では、元カノとは比較にならない。  それに1番があるって事は、2番もあるって事。健治の言う「愛しているよ」が私だけのものではないんだ。と、ネガティブ思考に陥る。  そんなのは、私の妄想で健治は遅くまで仕事をしているのかもしれないのに……。    明日の誕生日のためにレストランを予約していてくれている。  浮いたり、沈んだりする気持ちを持て余しながら、クローゼットの扉を開けた。  明日のためにワンピースを選び、バッグも用意する。  明日は、いい日になりますように……。  今は、それだけを思っていた。  
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