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 デザート食べ終えると、お腹も心も満足感でいっぱいになっていた。 「帰る前に化粧室へ行ってくるね」  健治の浮気を許したわけではないけれど、今日は自分の誕生日。豪華で美味しいお料理に、贅沢気分を味わい、プレゼントまでもらって久しぶりに満たされた気持ちになっている。それなのに浮気話をして嫌な思いをしたくない。また別の日に話しをすればいいと立ち上がった。 「化粧室なら、ココ出て左に曲がった奥だよ」 「うん」  お部屋から廊下に出て、左の方向に足を進めると健治の言っていた通り化粧室があった。用を済ませてから洗面台で手を洗い、口紅を直していると、人が入って来る。 「あっ!」  意外な人物を鏡越しに見つけて、凍りついたように動けなくなってしまった。  その人物は、私に気が付くと、獲物を見つけた肉食獣のように紅く色づいた口角を上げる。 「あら、お久しぶり、覚えているかしら? 大学の時に一緒だった、野々宮よ。浅木さん。ああ、今、菅生さんでしたっけ?」  何で一番、会いたくない人にこんな所で会ってしまうんだろう。  健治の浮気相手、元カノの野々宮果歩だ。  手入れの行き届いた長い髪、気の強さが現れた大きな瞳、抜群のスタイルをブランドの服に包み、学生の頃から変わらない女王然とした風格。  口を引き結んでいると果歩は私を上から下まで値踏みするように見下ろす。その視線に耐えきれず自分から話しかけた。 「こんばんは、おひさしぶりです。噂でお医者様とご結婚なさったと聞きましたが……お名前は、野々宮さんのままで?」 「ああ、苗字? 夫は婿養子だから、苗字はそのままよ。だけど、今度、離婚するかもしれないから……。フフッ、どっちにしても野々宮なのよ」  果歩の口から離婚と言う言葉を聞いてゾワリと背筋が寒くなる。  
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