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 果歩は、フフッと笑い、話を続けた。 「このお店、素敵でしょう。私も良く来るのよ。友人にもこのお店を紹介する事が良くあるのよ」  と言って、洗面台を指先でコツコツと鳴らす。  音のする方へ視線を移すと、果歩の指先には綺麗にネイルが施され、ブランドの指輪が輝いている。  私は、医療関係者だから、短く切りそろえ、指先にネイルなどできない。仕事帰りで指輪もしていない状態だ。  自分との差を見せつけるような、女としての見下されているような、指先にやるせなさが募る。  それに、”友人にもこのお店を紹介”という含みを持たせた言い方も、暗に自分が健治にこのお店を紹介してあげたと私に言っている。  そうだ、健治は私が化粧室に行くと言った時に場所を教えてくれた。以前にも果歩とこのお店を使ったことがあるんだ。だから、詳しかったんだ。  イヤだ。もう、聞きたくない。  でも、この人の前で泣くような事もしたくない。 「失礼します」と言って、その場から立ち去ろうとした私の背中に「またね」と余裕たっぷりの声が響いた。  どうしよう。このまま、何処かに消えてしまいたい。  お店の部屋で健治が待っている。今、会ったら叫びだしそう。  荒い息を繰り返し、廊下を歩いていると段々と視界が白くぼやけてくる。 「あっ……」  と、思った瞬間には意識が途絶えてしまった。
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