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「美緒……」 「健治は、そろそろ子供って言っていたけど……。私は健治との将来が考えられなくなっている。ごめんね」  健治は視線を泳がせる。それだけで、健治の動揺が見て取れるようだった。  きっと、浮気現場を見られたなんて、考えもしなかったのだろう。  でも、私だって凄くショックを受けた。出来れば、そんな場面を見たくなかったのに……。  健治は、気持ちを切り替えるように大きく息を吐き出した。  そして、いつも通りの優しい瞳を向け、ベッドの中にいる私へ手を添える。 「落ち着いたら家に帰ろう。お医者様から、美緒の意識が戻ったら、帰って良いと言われているんだ」  確かに、ココは病院だ。今は深刻な話なんて出来ない。家に帰ってからだ。  その間に、自分がどうしたいの考えないといけない。 「美緒……大丈夫か?」  健治は、私が起き上がるのに手を貸してくれる。そう、いつも優しい。健治との将来を考えられないと言ったけど、この手を自分から離すことが出来るのだろうか?  一度、繋いだら心地良く。私を助け、引っ張ってくれる大きな手。  ベッドから立ち上がると、健治が心配そうに私を覗き込む。 「無理すんなよ。タクシー呼んだからな」  健治は、私の肩を抱き歩き出す。  病院を出ると深夜の深い時間。見上げた空には厚い雲がかかっているのだろうか、星ひとつ見ることも叶わない、暗い夜空が広がっていた。  家に帰るためのタクシーに乗り込むと、低いエンジン音と共に、ゆっくりと街の景色が流れ出す。   私の心は、ドコに行くんだろう?  健治と並んで歩んでいくのだろうか?  一人で歩いて行くのだろうか?  それとも他の人の手を取るのだろうか?  車窓から見える、街並みを見ていてそんなことを思った。  
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