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 朝、目覚めると、横に並んだシングルベッドには健治の姿はなかった。  もしも、健治と別れたら朝起きた時、いつも一人なんだ。と、ぼんやり考える。  リビングルームの方でコトコトと人が動いている気配を感じた。    通勤着の白のカットソーとグレーのスラックスに着替えて、顔を洗いに洗面所へ向かう途中、リビングからコーヒーの良い匂いが漂ってくる。その香りの誘惑にリビングのドアを開けた。すると、朝の光が降り注ぐリビングで健治が柔らかい笑顔を向ける。   「おはよう。具合はどう?」 「うん、どうにか。……顔洗って来るね」 「コーヒー入っているよ」 「うん、良い香りがしてる」    その言葉に健治は安心したような表情を浮かべた。  自分の気持ち次第で、この笑顔を見られなくなるかもしれないんだ。笑顔だけでなく”おはよう”と、日常の挨拶を交わすことも無くなってしまうのかも……。  そう思と、胸の奥が切なく痛んだ。   「仕度してくるね」  洗面所で顔を洗い。化粧水・乳液を付けて、ファンデーションとアイブロウ・アイライナーだけの簡単メイクをする。  医療従事者として、人に不快感を与えないような最低限のものだ。  メイクをしなくても ”いい年した女がノーメイクなんて” と言われるし、バッチリメイクをすれば、”不潔”と言われる。
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