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 鏡に向かってメイクをしていると、昨日の果歩の様子を思い出してしまう。  綺麗に施されたメイクも整えられた爪も女性として完璧だった。自分では到底敵わない。  果歩と不倫をしている健治を許せないと思う一方で、まだ健治を好きで別れたくないとも思ってしまう。  朝から感情の浮き沈みが激しくて、落ち着かない気持ちを持て余している。    鏡に映っている優柔不断な自分に向かって、イーッとして、気合を入れるように頬をパチンと両手で叩く。  そして、健治のいるリビングへ向かった。   「ほら、ちゃんと食べて仕事に行けよ」  目の前にプレートが、コトリと置かれた。そのプレートの上には、野菜のサンドイッチとカットされたオレンジが添えられている。カップスープは、あさりとワカメ。デザートにプルーンヨーグルト。そして、ミルクたっぷりのコーヒーも添えられた。 「コーヒーは、貧血に良くないだけど、ミルク入りでオマケな」  と、健治は茶目っ気たっぷりに微笑む。  私の体調を気遣ったメニュー。鉄分やビタミンCやビタミンB12が含まれているモノがチョイスされている。きっと、私が寝ているうちにコンビニまで行って、色々と買い足してくれたのだろう。   「いただきます」   「美味いか?」 「うん、美味しいよ。ありがとう」 「良かった」  そう言って、健治はふわりと微笑む。  そんな健治に「何を考えているの? 私と、この先どうしたいの?」と問い掛けたくなる。でも、今は、仕事にいかなくちゃいけない。ミルクたっぷりのコーヒーと共に問い掛けたい言葉を飲み込んだ。
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