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店舗に戻って調剤室の扉を開けると、薬剤がずらりと並んだ棚の前で、里美が処方箋片手に薬のピッキングをしていた。
「ごめんね。ありがとう」
「あっ、さっきより顔色が良くなりましたね」
里美に笑顔を向けられ、恥ずかしくて顔が火照った自分としては、妙な後ろめたさを感じる。
「おかげさまで。処方箋をもらったから後で確認して」
「了解です」
土曜日という事もあって、普段仕事で来られないサラリーマンなどが定期薬を貰いに来たりと、平日よりもたくさんの患者さん来ている。それこそ目のまわるような忙しさで午前中の業務が終了した。
やっぱり、急に休んだら迷惑を掛けるところだった。
体調もだいぶ戻ったし、無理をして出勤して良かった。ちょっと、恥ずかしい思いをしたけど、病院に行って検査もしてもらったから安心だ。
事務員さん達が帰った後、自分が貰った処方箋をPCで入力して、薬をピッキングする。薬を里美に確認してもらい、お会計分のお金を支払う。
「先輩、気持ちが辛いのが体に出ているんじゃないですか?」
「うん、そうかも……」
思わず本音が漏れてしまった。でも、こんな話は事情を知っている里美としか話せない。
「辛かったらいつでもウチに来てくださいね」
「ありがとう。里美に話を聞いてもらっているから随分気持ちが楽だよ」
その言葉に里美が切なそうに微笑む。
「先輩、浮気をする男なんて、信じちゃダメですよ」
「里美……」
私の手の上に里美の手が重ねられた。女の子の柔らかい手が私の手を包み込む。
長いまつ毛に縁どられた子猫のような瞳が私を見つめる。
近い距離に里美から漂う甘い香りが濃く感じた。
一瞬、唇に柔らかい感触を感じる。
「待って、いますよ。先輩」
蠱惑的な瞳が私を誘っていた。
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