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「どう? 美味しい?」 「うん、凄く美味しいよ。優しい味で体に沁みる感じ」 「そう。良かった」    健治特製の中華粥は、鶏出汁がしっかり効いていて、それだけじゃない何か深みのある味わい。 「隠し味何? 鶏出汁の他に何か入っているでしょ?」 「あ、わかる? ホタテ出汁が入っているんだ。ちょっとズルしてホタテの出汁の素を使っちゃったんだけどね」 「へー、そんなのあるんだ」 「ほら、ネットのレシピサイトに出ているんだよ。それで、近所のスーパーに行って見てみたらあってさ、前に行った時、調味料の棚だって見ていたはずなのに、よく見ていないと気が付かないもんだな」  最近は、家事分担の約束を破って、何もしていなかった健治なのに、今日は朝ごはんも昼ごはんも用意してくれている。  これは、体調の悪い私への気遣いなのだろうか?  それとも罪滅ぼし?   家事をしてくれても、素直に喜べない。その裏を考えてしまう。 「おい、大丈夫か?」  思考に気を取られ、食事を取る手が止まっていた。 「うん、大丈夫。お粥、すごく美味しいよ」    作り笑顔を健治に向けた。  すると、健治の手がスッと伸び、私の頬に優しく触れる。 「まだ、顔色悪いな。無理すんなよ」 「うん……」     頬に触れた健治の手が温かく感じられた。  優しされると、心が揺れ動く。 「ごちそうさまでした」 「ん、ちゃんと食べたな。まだ本調子じゃないんだろ? 俺が片付けるから座ってていいよ」  そう言って、テーブルの上に残っていた食器をキッチンに運んだ健治。  椅子に腰かけたままの私は、この後、健治の浮気(不倫)の話をするかと思うと、とても憂鬱で出来る事なら逃げ出してしまいたい気持ちになる。
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