9

6/13
前へ
/152ページ
次へ
Side 健治    野々宮との関係は、引き時だと思い、終わらせたばかりだ。  別れる少し前、渋谷のファッションホテルには確かに行った。その時、まさか美緒に見られていたなんて、ツイていない。  しかも、美緒の誕生日に合わせて、わざわざ予約した店に、野々宮が来ていたなんて思わなかった。  そのうえ、美緒に色々言うなんて……。  先週、俺から別れ話をした腹いせだろうか。  気まぐれでワガママ、血統書付きの猫のような性格の野々宮果歩とは、大学の頃から別れたり付き合ったりを繰り返してきた。  女優のような野々宮が彼女で有る事が、大学時代は一種のステータスシンボルだったのだ。  大学卒業後、大病院の跡取りである野々宮が、医者と結婚するのを機に、終わった関係。  だが、結婚して暫く経った頃、野々宮から連絡が来たのだ。    うかつにも誘いに乗ってしまったのは、身体の相性が良かったから。  それから、お互い割り切った大人の関係として時折会うようになる。  お互い既婚者同士の割り切った関係だからこそ、どちらかが終りにしようと言えば、終了の後腐れの無い関係のはずだった。  美緒に嫌味を言うために、わざわざ店まで突き止めて来るなんて、プライドの高い女王様を怒らせたようで面倒だ。  野々宮との、この先の事を考えるとため息が洩れた。    しかし、起こってしまった事は、仕方がない。それを如何にリカバリーしていくか、美緒の性格を考えて行動する。  俺は、美緒を手放す気はない。  今朝だって、上手くやれた。  俺を好きだという美緒の気持ちに付け込むようだが、優しさで絆だして、ゆっくりゆっくり絡めていけば、美緒は俺から離れては行かないだろう。  俺は謝罪の言葉を口にし、美緒にチャンスをくれと懇願する。  優しい美緒は、それだけで俺との明日を考え始めるだろう。 「そう、直ぐに結論を出さずに美緒は俺の更生期間だと思って暫く過ごす。その間、もしも俺が美緒を裏切るような真似をしたら、その時は美緒から俺に三下り半を突き付けていいんだ。俺は、美緒の事を大切にする。だから、そんなことは起こらないと思うけどな。これからの事もゆっくり考えられるし、どうかな?」
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

256人が本棚に入れています
本棚に追加