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Side 美緒  健治に抱きしめられて、優しく愛の言葉を耳元で囁かれ、体の力が抜けていく。  頭の中では、警笛音が鳴り続けているのに、甘い誘惑に絆されて、健治の手を離せなくなっている。  好きと言う感情は、心の目を閉じさせ、私を盲目にしてしまった。  きっと、いつか傷つくと分かっているのに、激しいキスをされて、体を熱くしている。  キスで溶かされて、甘い言葉を紡がれて、耳朶を食まれる。  すると、何も考えられなくり、健治の声が私の思考を支配する。  吐く息は甘く、健治に縋る手は熱を求めていた。  私を見つめる健治の瞳は、私を欲しがっている。  健治に一番愛されたい。もっと、私を愛して欲しい。  優しい手を離したくない。    こんなに簡単に許してはダメだって、分かっているのに、健治に絡め取られて堕ちていく。 「健治……」 「ん?」  健治は、キスをするばかりで、強請(ねだ)るように名前を読んでもそれ以上の事はしてこない。  私の体を気遣っているのか、私の体を焦らしているのか、恋の駆け引きなど出来ない私は、健治の思惑が読み取れないでいた。  ただ、どちらにしてもキス以上の事を求めるならば、自分から健治に言わないと体を疼かせるばかりで欲しい物は、与えてもらえない。    でも、健治を自分から欲しがったら健治の不倫を許しているみたいだ。
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