9

10/13
前へ
/152ページ
次へ
 もう、ずるい……。  濡れる瞳で見つめても、見つめ返してくるばかり……。  健治は、私のうなじに手を添え、もう片方の手で顎を持ち上げた。  まるで、その感触を確かめるように指先で唇をなぞり、私は唇を薄く開いた。    薄く開いた唇を舐め上げられ、隙間から舌を差し入れられる。  私を追い立てるように舌が動き、口腔内に唾液が溢れて行く。  たまらずにそれを飲み込むと、媚薬のように体の芯が疼きだす。    心の中で、健治を許せない気持ちと許したい気持ちが、(せめぎ)ぎ合う。  優しいキスをたくさんされて、凄く深く愛されているように感じてしまう。  健治の浮気を許せないのに、過去の出来事にしてしまいたい自分がいる。  中途半端にしたくないのに、言葉がでない。 「健治……」 「なに?」  本当はわかって居るはずなのに、はぐらかされる。  名前の続きの強請(ねだ)るセリフを言わせようとしている。  でも、自分から言いたくない……。  部屋の中に私と健治のリップ音が鳴り響き、壁掛け時計が二人の時間を刻んでいる。  口の中に入り込んだ健治の舌が私の劣情を煽り、部屋に響くリップ音が時計の音と重なって、耳から私の理性を摧砕(さいさい)した。  体が、疼きを覚えだし、腰のあたりに熱が集まるのがわかる。  それなのに健治は、キスをするばかりで、それ以上の事をしてくれない。  キスの雨を降らされて、甘い息が上がる。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

259人が本棚に入れています
本棚に追加