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 店舗のシャッターを開け、薄暗い店内の電気を付けながら奥の事務所まで行き、出勤の指紋認証を付ける。会社からのメールをチェックするといつもの一日が始まる。  服用する薬の種類が多い患者さんの服用ごとに薬をまとめる機械・分包機の掃除を始めていると、里美が「おはようございます」と入ってきた。    「おはよう。土曜日ありがとう。おかげさまで、もう大丈夫だよ」  体とは現金なモノで精神状態が落ち着いたせいか、フラフラしなくなったのだ。  まあ、薬を飲み始めた事もあるのかもしれない。 「美緒先輩が元気ならよかった。心配したんですよ」 「うん、ありがと。里美が助けてくれるから心強いよ」 「どういたしまして。お昼ご飯が目当てですから」    里美は茶目っ気たっぷりに言う。 「まかせて、お昼ご馳走しちゃう」 「冗談です。そんなに私にたかられてどうするんですか。自分の分はちゃんと払いますよ。だから、一緒にごはん行きましょう」    私を覗き込む里美は、子猫のような瞳の長いまつ毛を瞬かせた。   「あ、うん、後でお昼いこうね」    私は、里美に見惚れていた事を誤魔化すように視線を戻し、分包機の掃除を始める。  時折、訪れる里美への不思議な感情に戸惑いながら、忙しさに紛れて気付かぬ振りを続けた。    お昼休みになりと、里美が嬉しそうに私の腕を取り、ふたりでCafé des Arcs (カフェ デ ザーク)に向かう。  里美との腕組みが日常化して抵抗がなくっている自分がいる。
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