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  Side 健治  勤務先である大手製薬会社アルゴファーマに到着し、自分のデスクでPCを立ち上げ、メールのチェックを始める。  すると、友部課長に声をかけられた。  「菅生君、今、いいかね」  「はい」  今朝、美緒と話していた配置換えの事だろうと、予想をしながらミーティングルームへと赴く。  そして、内容はやはり、その話だった。  新しい担当地区は、栢浜(かやはま)市。  転勤にはならず、会社から車で30分程の近隣の市である。  営業成績が振るわない地区へ俺の能力を買っての配置と、友部課長からの説明があった。  テコ入れを期待されて、声が掛かったのだが、俺にはため息しか出なかった。  友部課長に「期待しているぞ」と肩を叩かれる。  「はい、期待にお応えできるよう頑張ります」と返事をしたものの、心の中では「よりにもよって栢浜(かやはま)かよ」と悪態をつく。  政令指定都市の 栢浜(かやはま)市 には、14の区があるその14の区を4つに区切りA班~D班に分けて、担当MRを配置していた。  それをまとめるのが、俺の役目となる。    新たな担当地区である、栢浜(かやはま)市には強力なライバル企業が君臨していた。  栢浜(かやはま)市に本社・工場を置いている三栄製薬だ。  地域貢献や医院とのつながりが根強く残り、俺の勤務先である、アルゴファーマは大手ながら、この地区へ食い込めずにいた。    担当地区への挨拶周りは、病床数の大きな病院が優先で始まる。  栢浜(かやはま)市全体では、およそ100弱。  そして、栢浜(かやはま)市緑原区に病院の1つに『緑原総合病院』がある。  その『緑原総合病院』は、元カノ・野々宮果歩の実家である事が俺にとって憂鬱の種でもあった。  
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