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  *  今までの担当地区の引継ぎと新しい地区の引継ぎが始まると日中は挨拶周りに追われ、その間に通常の業務をこなし、その後、会社に戻り書類を作り時間に追われる日々が始まった。  家に帰るのが暫く遅くなり、美緒との時間が取れない事に不安が溜まる。  美緒が受け入れてくれたとはいえ、舌の根の乾かぬ内に、連日帰りが遅くなったら浮気を疑われるのではないだろうか?  仕事を理由に今まで、野々宮果歩と逢瀬を重ねていた。  自業自得とはいえ、真面目に仕事をして、疑われてこれ以上こじれるのはゴメンだ。  それに、野々宮の実家の『緑原総合病院』に出入りしなければならなくなってしまった。フラフラ遊んでいる野々宮果歩に病院で会うとは思えないが、関わりを絶とうとしている時に、纏わりつかれている様な嫌な予感が拭えない。  家に帰り着くと、既に眠っている美緒の脇に立ちそっと手を伸ばす。  髪を撫で、美緒の頬に手を当てると美緒の体温が伝わってくる。  「美緒、おやすみ」  小さな声で呟やいて、眠る美緒の額にそっとキスを落とす。  規則的に寝息を立てている美緒を眺めながら、自分の中に湧き起こる不安を必死で抑え込んだ。
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