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 経過観察でホッとした。悪い病気じゃなくて良かった。  自分では気が付いていない内に体にストレスを溜め込んでいて、体が耐え切れなくなったんだ。  健治の浮気を偶然知ってから、ずっと辛かった。 「今回は、経過観察で。疲れ易いようだから、くれぐれも無理をしないように」 「はい」    心の中のバランスがおかしくてなってしまって、誕生日のあの日、果歩に会って、イヤな事を言われて倒れたんだ。  あの時は叫び出したいほど、本当に辛くて悲しかった。   「もし潰瘍になったらピロリ菌の検査や胃カメラの検査出来れば女性は胃よりも十二指腸潰瘍が多いので十二指腸検査も必要になります」 「大変そう……、出来ればこれ以上酷くならないように気を付けます」  健治の言葉を信じてやり直そうと思っているけど、あんな辛い思いはしたくない。  健治の帰りが遅いと ”また、もしかして” とか心の片隅で思ってしまう自分がいる。こういうのが、ストレスの原因になるのだろう。分かっているけど自分ではどうしょうもできない。    顔を上げると三崎君と視線が絡む。  フッと優しく微笑み、三崎先生から三崎君の表情になった。 「酷くならないよう、一人で抱え込まず、ストレスが溜まる前に話を聞きますから倒れないでくださいね。俺でよければ、いくらでも相談にのるから」 「ありがとう。体調管理に気をつけます」  友人として心配してくれているだけ、そのラインは間違えないようにしないと。  そう、自分に言い聞かせる。 「じゃ、今日はここまで。お大事にしてください」    三崎君のメガネの奥のダークブラウンの瞳が優しく弧を描き私を見つめる。  その瞳がとても温かくて、沈んだ心がフワリと浮き上がり、トクンと心臓が音を立てた気がする。 「はい……ありがとうございました」  病院を出て、店舗に戻る僅か数メートル。  ひらひらと舞う蝶を見つけた。  温かい春の日差しが降り注いでいた。
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