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Side 健治  目を覚めすとカーテンの隙間から明るい日差しが洩れている。  隣のベッドには、すでに美緒の姿は無かった。ベッドボードに置いてあったスマホを手に取ると、画面に表示された時間は、13時18分。   「こんな時間まで眠っていたなんて、ずいぶん疲れていたんだな」 寝過ぎたせいか、体がだるく感じられた。 直ぐに起き上がる気になれず、ベッドの上に寝そべったまま、スマホを立ち上げ、名刺アプリを起動させる。  配置換えが決まってから連日、挨拶周りに追われ、交換した名刺は数知れず。スマホのアプリに登録した名刺に覚えている限りの顧客情報を打ち込む。些細な会話から拾い上げた、趣味やし好品をメモして、今後の仕事につなげるためだ。 画面に野々宮成明の名刺が表示され、思わずスマホを打つ手が止まる。   野々宮の実家『緑原総合病院』に行った際、医院長である野々宮の父親が不在で、代わりに副院長の野々宮成明が対応してくれたのだ。  野々宮果歩の夫、野々宮成明の印象は物腰の柔らかい好人物だった。  まさか、不倫相手だった元カノの夫に挨拶をする羽目になるなんて、野々宮果歩と関係を持った頃は考えもしなかった。 後ろめたい気持ちを抱え、挨拶を交わした。  幸い野々宮成明には、俺と果歩の間に関係があった事を知られている様子は無い。  そして、この先も知られてはならない。   野々宮果歩との関係は終りにしたのだだから、今更、面倒事はゴメンだ。    
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