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まだ、野々宮の話をするのは早すぎたのだ。  焦った俺は余計な言い訳をしてしまう。 「ごめん。緑原総合病院に行っているのを後になって知ったら、誤解の種になるかと思って……」  俺の気持ちが美緒に届いているのだろうかと、不安になり様子を伺った。  案の定、美緒の表情は暗い。 「うん……。仕事で行くんだよね」 「ごめん」 「ん……」  と短い返事だけが聞こえて来る。    野々宮とは別れたのだから、これ以上美緒との関係を悪くしたくない。  焦る気持ちが、キッチンに居る美緒の元へ足を進ませた。 誰でも、結婚生活に理想を持っているはずだ。 仕事で疲れて帰り着いた我が家のドアを開けた時、「おかえりなさい」の柔らかな声と、美味しそうなごはんの香り。それを用意してくれる妻。  お金に対しての価値観や将来子供を持つ事を考えれば、堅実な女性を妻にしたいと思うだろう。  遊びの女と結婚する女は違う。    そして、背中を包み込むように抱きしめた。 「美緒、愛しているよ」  美緒だけが、俺を癒してくれる。  優しい美緒。  可愛い美緒。  俺は、美緒を手放さない。   
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