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 Side  野々宮果歩  タワーマンションの窓から見下ろす街は、まるで模型(ジオラマ)のよう。  勝ち組だけが手に入れられる景色に野々村果歩は優越感に浸る。 「今日のお昼はどこで食べようかしら」    ソファーに腰かけ、スマホを立ち上げる。グルメサイトをスクロールさせるとイチゴフェアと春のグルメフェアの特集記事に目を引かれた。  その記事を読み進めると、オススメでアルタイルホテルが出てきた。   「あっ……」  っと、思わず声が出たのは、以前に健治と利用した事のあるホテルだからだ。  悔しさが胸にこみ上げ、ガリッと爪を噛む。    楽しく付き合っていたはずの健治に一方的に別れを告げられたのは、今だに納得が出来ず、心の中が燻り続けている。  仕返しとばかりに健治の手帳を盗み見た情報を元に、美緒の誕生日に予約をした店に行って意地悪をしてやったが、それでも気持ちが治まらないのだ。    ちょっと、離れていた間に、大学で同期だった浅木美緒と結婚してしまった健治。  自分が結婚をしたのが原因で別れている間の出来事とはいえ、あんなつまらない、家庭科は5みたいな美緒と健治が結婚したなんて、気に入らない。  甘い言葉と誘惑で、まんまと縒りを戻した時には、やっぱり私の事が好きで仕方なく、つまらない女と結婚をしたんだと溜飲を下げた。  それなのに、あんなつまらない女との生活を大事にしたいからと言って、私が健治に振られるなんてありえない。  ギリギリと爪を嚙みながら、悔しさを何処に投げつけようか考えていた。  立ち上がり今日着る服を選び始める。  イライラすると服も決まらない、この服はあの時着た服だとか、健治と過ごした時間が脳裏に蘇る。  数枚の服をクローゼットから取り出しベッドの上に積み上げた。   仕方なく、その内の一枚に袖を通し、外出着に着替える。  残りの服を仕舞うのが面倒だから、まとめてクリーニングに出そうと出入りの業者にすぐ来るように電話を入れた。  ついでに夫・成明の背広もクリーニングに出そうと最近着ていたスーツをクローゼットから取り出し、余計なモノが入っていないか、ポケットを確認した。  すると、手に当たるモノがあり、それを取り出す。  「なんだ、名刺か……」  と思ったが、名刺に書かれていた名前を見てほくそ笑む。  『㈱アルゴファーマ 医薬情報担当 統括責任者  菅生健治』
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