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洗面台に向い鏡を見ると、目の周りが黒くパンダ状態になっていた。
アイライナーとマスカラが、涙で浮いていたところを擦ったものだから、まさにホラー状態だ。
こんな顔を三崎君に間近で見られていたなんて恥ずかくって、この後どんな顔をしたらいいのか……。
でも、手を頭の後ろに回されての近い距離に驚いたけど、よく考えたら、鼻血止める時に後頭部を抑えているのと、同じような動作だ。
まさに手当といった感じで、三崎君の不器用な優しさに心がほんわりする。
化粧ポーチに入っていたサンプルのメイク落としを使って、パンダを必死に落とし、この際だからと顔を洗って、下地もないからファンデーションは塗らずにアイブロウとアイライナーとマスカラだけの簡素なメイクにした。透明のリップを付けて完了。どうせマスクで隠れちゃうから、患者さんの前では、これで誤魔化す。
鏡に映った自分を見て、我ながら女子力が低いなと思った。
ふぅと細く息を吐き出し、ドアに手を掛ける。
気持ちが弱っているからって、里美と三崎君に甘えてばかりでダメだなっと思う。パチッと両手で頬を叩いて気持ちを切り替えた。
「お騒がせしました。ごめんなさい」
「イヤ、俺こそ、擦っちゃったから……目のまわりが……」
三崎君は話の途中で、肩を震わせ始めた。
きっと、私のパンダ顔を思い出しているんだと察した。
「もう、思いっきり笑ってください」
半ばやけっぱちで言うと、三崎君は声を上げて笑いだした。
里美に助けてと視線を送ると里美も釣られて笑い始める。
「ご、ごめん。普段、しっかりしているのに……ハハハ。あんな顔見れないし……先輩、メッチャ慌てていたし……」
里美まで……。
でも、深刻に待ち構えられて、涙の理由を聞かれても困ってしまうから、笑い飛ばされて良かった。
もしかしたら、二人の気遣いなのかもしれない。
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