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*  スマホから漏れるクスクス笑いが、耳につく。  ”どうして社用携帯の電話番号を知っているんだ” という言葉が喉から出かかったが、直ぐに緑原総合病院へ挨拶をした事に思い当たる。  野々宮果歩の夫・成明から何らかの形で手に入れたのは容易に想像できた。 「実はまだ、立て込んでおりまして、ご希望に添えず申し訳ございません」 「あら、そんな事を言っていいのかしら? 私、良い物持っているの。あなたが絶対に欲しがるような素敵な情報……知りたくない?」  野々宮は、今、と言った、その言葉にピクリと反応する。  今までの不倫関係がバレるようなバカな話の内容ではなさそうだ。 「どのようなものでしょうか」 「あら電話じゃ言えないわ。でも、絶対に良い物よ。フフ、知りたいでしょう?」  狡猾な落とし穴が用意されている。  どうすればいい?    今、この状況で野々宮と会えば、美緒の疑惑の念を大きくする事態になり兼ねない。  しかし、野々宮は、取引に有益な情報を持っている可能性が高い。  すっかり暗くなり夜景を映す窓を見つめた。  室内灯に反射して、自分の姿が写し出される。  そこには、追い詰められた顔をした男がいた。  視線をはずせば、壁に貼られた今月の出来高グラフが目にはいる。  伸び悩む自分の担当地区のライン。  ため息と共に言葉を吐き出す。 「どちらに伺えば宜しいでしょうか?」  
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