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 *  午後9時、アルタイルホテルのラウンジバーに足を踏み入れた。  左手に木目カウンター、止まり木にカップルが寄り添うように座っている。  視線を走らせ、俺を呼びだした女の姿を探す。右手のBOX席には、目当ての人物は見つからなかった。  店内中央にグランドピアノ、その奥の窓際にカップルシートを見ると一番奥に体のラインを強調したような黒いワンピースを着た女を見つけた。  重たい足を進め、隣の席に腰を下ろす。 「お久しぶりです。野々宮さん」 「フフッ、久しぶりね健治。ちょっとお疲れかしら?」 「ああ、早く家に帰りたいよ」  嫌味を込めて野々宮に言うと、野々宮はクスリと笑い、艶のある視線を向けた。そして、紅く色付く唇を動かす。 「でも、来ちゃったのよね」 「で、情報って?」 「あら、せっかちね。まだ、何も頼んでいないじゃない」  野々宮は、手を上げ店員を呼びつけ、ジントニックとブラッティマリーを注文した。    ゆっくりと向き直った野々宮は、獲物を狙う肉食獣のようにジッと見つめて来る。  そして、紅い唇を動かす。 「情報をあげるにはメリットがないとね。取引ってそう言う物でしょう?」 「メリット……」 「そう、メリット。ねぇ、わかるでしょう?」  キレイにネイルを施された指先が俺の膝に伸び、太股の上を滑る。   「私たち、相性は悪くなかったと思うの。別れる必要は無いと思うのよね」 「イヤ、お互い既婚者だし……もう潮時だよ。今は色々とうるさいだろう?」  そこまで、言うと注文していたジントニックとブラッティマリーが運ばれて来た。
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