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* 「せっかく、チャンスを持って来たのに、まさか要らないとか言わないでしょうね」  野々宮の指先が、ゆっくりと太腿の上をなぞり、俺を誘惑する。 「バレなきゃ平気でしょう?」  耳元で聞こえる悪魔の囁きに、ゾクリ粟肌がたつ。 「これは取り引きなの、二人だけの・ひ・み・つ」  二人だけの秘密の取り引き……。  それは、甘美な響きだった。  野々宮は上目遣いに含みのある視線を送り、楽しそうに口角を上げ紅い唇を動かす。 「あなたは仕事の情報を手に入れる。そのために私と秘密の取り引きをするだけ、簡単な事でしょう?」  野々宮の指先がUSBメモリを弄び、その瞳は蠱惑的に光る。   「楽しい事しましょう。普段出来ないような事もシ・テ・あ・げ・る」  そう言って、野々宮は紅い唇を淫猥な含みを持って舐め上げる。  だが、それでも頷かない健治に焦れ始めた。 「コレ、いらないのなら他の人と取り引きをしようかしら……?」  三栄製薬会社の取り引き薬価情報が他社に渡る。それは、他の社にチャンスが行くという事。野々宮なら腹いせにやり兼ね無い。  食い込むどころか他の社に出し抜かれるなんて、社内的にも許されない。  苦々しい思いで、俺は言葉を吐き出した。 「部屋は、何号室だ?」
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