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* 「あら、一緒に行けば良いじゃない」 「ダメだ。どこで誰か見ているか分からないのに、二人で並んで部屋に入るのは危険だ」  健治は、渋谷でファッションホテルから出て来たところを美緒に見られたのを思い出していた。  今、ラウンジにいる事すら厄介ごとの種なのに、二人で部屋に入るのを見られたらタダでは済まされないだろう。  ()(この)んで野々宮との関係を復活させているわけでもないのに冗談じゃない。 「まあ、どっちでもいいわ。5015号室よ。先に行ってシャワーを浴びているから健治は後から来て頂戴。カードキーも渡しておくわ」  そう言って、野々宮は蠱惑的な視線を残し、手荒れの無いネイルが施された綺麗な手をひらひらさせて、ラウンジを後にした。  残された俺は、ぐったりと体の力が抜ける。そして、緊張からか喉がカラカラに乾いていた。店員にジントニックを注文する。    美緒に別れを切り出されないように言った自分の言葉が重く圧し掛かる。 『俺は、美緒の事を大切にする。だから、そんなことは起こらないと思うけどな』  今、自分の思いとは裏腹にが起ころうとしている。  野々宮の悪魔のような囁き。 「これは取り引きなの、二人だけの秘密」  狡猾な落とし穴に嵌った。  俺は、どうすればいい?
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