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ホーネットのダークグレーの翼が、地上の目標を捉えようとしていた。
山岳地帯へギリギリの高度で侵入すると、地上からは視認しづらくなる。
平地へ出る瞬間、地対空ミサイルが雨あられと襲いかかってきた。
センサーが反応し、けたたましい音と共に視界が赤く囲われる。
機体をロールさせながら、真っ直ぐに斬り込む。
「ビービーうるせえ。
ミサイルが来てるのは分かってるんだ。
喚くんじゃねえ」
操縦桿をわずかに引き、爆弾を投下すると同時に戦車へ20ミリバルカン砲の雨を浴びせる。
「戦車がウジャウジャ居やがる。
もう一回積んで出直すぞ」
「おい、ラルフ。
あまり入れ込むなよ。
ミッションはほぼ達成した」
上空を旋回して、敵戦闘機を威嚇していたホワイトの声だった。
装甲車の群れを攻撃し、正規軍の補給路を断つ目的はほぼ完遂していた。
後方の砂漠から、石油が燃える黒い煙を確認すると、ふうと一つ息をついた。
「それもそうだな。
全機、帰投する。
燃料が少ない者から先に行け」
ラルフは2機を引きつれて、また低空飛行でアル・サドンを目指した。
陽が沈みかけ、雨雲が砂漠に暗い影を落とす。
「荒れそうだ。
雲の上に出ろ」
ホワイトの指示に従って、3機は暗い塊を突き抜けていく。
真っ暗な視界から高度計に視線を移すと、3000メートル程の高さで雲の上に出た。
ウソのようにカラッと陽が差して沈む太陽を認めた。
「また雨か。
ラルフが来てから、増えた気がするな」
ふと、ラルフの脳裏に娘の顔が浮かんだ。
そして胸騒ぎが、呼吸を苦しくさせた。
「中東の先輩として言わせてもらうが、感情的になるなよ。
任務を冷静に遂行していれば、生き残って地上へ降りられる。
お前には家族がいるのだから、無駄死にはするな」
ホワイトの声は、珍しくトーンダウンしていた。
「ホワイト、お前こそ他人の心配とは、ヤキが回ったんじゃないのか」
4機は横に並び、渡り鳥のように上になり、下になり、風に身を任せるように揺らいでバーナーの尾を引いて行ったのだった。
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