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 ライトニングⅡを納めたハンガーに戻ったゼツは、木箱の山の隅に腰を下ろした。  後ろに束ねた髪をほぐし、もう一度縛り直すと、ガラクの方に視線を向けた。 「どうしたんだい。  そう気を張っていちゃあ、いざって時息切れするぞ」 「お母さんこそ敵地の真ん中で、髪を結び直してる場合なの」  油断なく倉庫の隅々まで見回し、突っ立っている娘の姿が可笑(おか)しくなってゼツは吹き出した。 「あははは、違いないな。  お前の方が正しいよ、きっと」  すっくと立ち上がると、一緒になってキョロキョロ見回して、また笑い出す。 「私のこと、バカにしてるわね」  (ほお)を少し(ふく)らませて、口を尖らせた。 「恐怖も緊張も、生き残るために必要な感情だよ。  私だって、家でのんびりしているときと一緒じゃないさ」  脇に仕込んでいたベレッタを抜き、何かを確かめるように眺めたまま母の目尻がわずかに引き()るのを認めた。 「何」  背後で何かが動いた。  全身の毛穴が開き、髪がふわりと浮く感覚と、足元がどっしり地面に食いつく感覚。  ファリーゼで銃撃戦を初めて見て、死を直感した時と同じだった。  ゆっくりと身体を(ひね)り、視界に捉えたのは美しいブロンドの長髪でスラリとしたファッションモデルのような若い娘の姿だった。 「あんたたちは、正義の女神アストライアか」  銃をホルスターに収め、足で地面を()るように、滑らかな足取りで近づいてくる。 「あ ───」  彼女の挙動には無駄がなかった。  (すき)のない身体には、心を素手で(つか)まれるような重い威厳(いげん)が備わっていた。 「わ、私はガラクよ。  母のゼツは強いけど、私はからきしでね」 「私の名前はナット・ジェナー。  この状況では、こっちが死に(たい)なんだけどな ───」  喋りながら徐々に口元が緩み、ついに腹を抱えて笑い始めた。 「ガラク、私はちょいと大人の用事をしてくるから遊んでおいで」  優しく娘を(いと)おしむような双眸(そうぼう)に、ジェナーは軽く会釈してガラクを引っ張って奥へと消えていった。
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