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 アルバラ共和国空軍基地である、アル・サドンは元々中立的な立場だったが戦況が(かんば)しくない反政府軍を支援する外人部隊になった。  総司令官のナセルは政府軍外人部隊にいるクリスと旧知の中であり、戦友でもある。  物静かで闘志を内に秘めるタイプだが、愛機クフィルのコックピットに収まれば、軍神マルスと見紛うばかりの勇敢さと、虎をも射殺す獰猛(どうもう)さを(あら)わにする。 「ホワイト、塩取ってくれんか」 「ほい、投げますよ」  ほぼ直線を描いて飛んだ味塩が、ひょいと上げた右手に乾いた音と共に収まった。 「ほれ、お前も使え、アリー」  戦闘機乗りとして、超一流の腕前を誇る3人は、何度も共に死線をくぐった仲間と言って良かった。  簡易食堂のトレーを並べて ゆで卵 とカレー、サラダとスープを口に運ぶ姿に階級差は感じられない。 「最近のラルフの活躍は、神がかっているな」  他人事のように、アリーが言った。 「この前は『戦車がウジャウジャいやがるぜ』なんて言って、もう一度出ようとしたが基地に帰らせたんだ」 「ほう、娘には会えたのだろう」 「そのようですが、妙に張り切っていて少々心配です」  スプーンを止めたナセルは、思案顔で遠くの壁を眺めていた。 「彼は、根っからの軍人ではないと思います」  ホワイトも手を止めた。 「と言うと ───」 「我々よりも、遥か未来を見据(みす)えて生きている。  そんな感じがするのです」  カチャリと食器を乗せたトレーを持ち上げたアリーは、ホワイトの言葉を聞いて表情を引きしめた。 「我々に、未来はあると思うか」 「いいえ、未来を捨てた人間が叫び、踊るために集まるのが戦場というものです」 「違いないな。  作戦会議の前に、奴のホーネットのガンカメラを確認しただろう。  どう思った」 「正直、敵には回したくないですね。  挙動に理解不能なニュアンスを織り交ぜて、最短距離で敵に向かい正確無比の攻撃をしていました」 「アル・サドンの元ナンバーワンであるアリーも舌を巻くか ───」  そんな話をしながら、3人は管制塔へと引き上げて行った。
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