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 ジェナーと肩を並べて談笑して歩くガラクは、傍目(はため)には友達同士でお喋りを楽しむ若者に見えた。 「へえ、じゃあ軍隊に入ってからまともな訓練も受けずに、ここに来たってわけ」 「そうなの。  銃の扱い方だけはレックスに教わったのだけれど、実戦で敵を撃つには足りないものが、まだまだ沢山(たくさん)あるわ」  その時、背後に積まれた木箱の山の影から、誰かが近づいてきた。  身を隠すでもなく、堂々として足音を高く響かせながら。 「ライトニングⅡに乗っていた、若い方の女か」  ため息をついて肩をすくめた。 「あなた、盗み聞きしてたのね」 「当たり前だろう、敵の兵士と、こんなに目立つところで話をしていて、何事かと思って聞いていたんだ。  クリストファー・キンバリーだ。  昼間あんたのライトニングⅡに狙いをつけて警告したのは俺さ」  目つきが鋭くて、気後れするほど威圧感があった。  だが顔つきは丸みがあり、幼さが残っている。 「それで、なぜ外人部隊に来たの」  ガラクを2人の視線が射貫いた。  改めて問われると、理由が分からない。  ポカンと口をパクパクしたまま、周囲をキョロキョロと見回すだけだった。  ジェナーはまた、どっと腹を抱えて笑いだした。 「ほら、おもしろいお嬢さんでしょう。  出来の悪いコントみたい」  指を指してゲラゲラ笑う彼女を見て、ガラクも可笑(おか)しくなった。  そしてキンバリーも口角を引き()らせて、クククッと笑い始めた。 「ここは地獄の激戦区だぜ。  明日をも知れぬエトランゼに、良く分からずに来てしまったみたいな顔してやがるぜ。  本気かよ」  こらえきれなくなって、3人は高らかに声を上げ、天を仰いで大口を開けて笑った。  チェコやスペインのファリーゼ、パリでの出来事がガラクの口を突いて出た。  家を出てから、怒涛(どとう)のように自分の身に起こった理不尽とも言える運命を、他人に話したのは初めてだった。  ずっと、だれかに聞いてもらいたい気持ちでいっぱいだった。  もしも、戦場以外でこの話をしたら、信用してもらえないかも知れない。  それほど現実離れした運命だった。  突然消息を断った両親と、再会したばかりで、その場所は敵地のど真ん中で、生きているのが不思議だなどと言うと、また笑いが込み上げて肩をゆすった。  キンバリーはガラクと同じ20歳だった。  なのに軍人としては遥かに経験を積んだ先輩だった。  ひとしきり話して、気を許したのか彼が言った。 「実はアル・サドンの兵士がうちの基地でうろついていても手を出すなと命令があったんだ。  敵同士のはずなのに、おかしな話だが、外人部隊の人間は様々な顔を持っている」 「どういうこと」 「例えばお前が入ったガルーサ社から、うちにも派遣されているのさ」 「そうさ、戦争ってやつは色んな顔がある。  影には沢山の陰謀が巡らされていることもある ───」  白髪の小柄な老人が、後ろ手に組んで木箱の上から見下ろしていた。
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