一.秋爾――歓楽街

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「痛い! 離してよこの変態! ガキ! ケーサツ呼ぶわよ!」 「何を言う! そちらこそ金も払わずに礼儀を欠いていると思わんのか!」  女が暴れるたび、また少年が激しく抵抗するたび、彼の帽子から垂れた飾り紐が美しく揺れた。 ――チリ、チリ。  飾り紐に括りつけられた鈴が、揺れるたびに焼けるような音を鳴らす。  どこの国の飾りだろう?  秋爾は異国の少年から目が離せなかった。  湿気と怪しさに沈む夜の空気の中で、彼だけがいやに清冽で、異質に見えた。  引っ張り合いの勝負は女の勝ちのようだった。  女はのハンドサインを掲げて店の前を足早に去っていった。  路傍の人間は物珍しそうにその行方を見送ったが、女の姿はすぐに闇へ消え、人々もまた興味を失った。いつもの公園、いつもの喧騒。秋爾もまた歩き出そうとした。 「おいお前。」  占い師の少年が言う。 「そこのお前。そう、お前だ。今『俺か?』みたいな顔をして俺を見た灰色の上着のお前だ。」  明らかに秋爾のことであった。  秋爾は戸惑いながらふたたび足を止めた。 「お前、見るからに『わたしは不幸です』という顔をしているな。おおかたつい最近職をなくして、その日暮らしをしながら明日のことを憂いておるのだろう。この先を知りたいと思わぬか。手を見せてみろ」  ひどく傲慢で礼を欠いた言い方だった。さっきの女が狂ったように怒りをあらわにしていたのも頷ける。  だが全て当たっていた。  なぜわかる?  訝しんで少年を見ると、彼と真正面から視線がぶつかり合う。  その瞬間、金縛りにあったように動けなくなった。  少年は帽子と分厚いコートに顔の大半が隠されていたが、唯一露出した眼はするどく、美しかった。瞳が街のネオンを反射し、黒のオパールのように光っている。  出会ってはいけない類の人間だ――きっとこいつにかまっても良いことは何一つない。一刻も早く立ち去らねばならない。  だが、強く見つめられたまま、足がすくんで動けない。 「聞こえているのか。手を見せろと言っている。占ってやるからそこに座れ。安心していい。ぼったくりではない」
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