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「痛い! 離してよこの変態! ガキ! ケーサツ呼ぶわよ!」
「何を言う! そちらこそ金も払わずに礼儀を欠いていると思わんのか!」
女が暴れるたび、また少年が激しく抵抗するたび、彼の帽子から垂れた飾り紐が美しく揺れた。
――チリ、チリ。
飾り紐に括りつけられた鈴が、揺れるたびに焼けるような音を鳴らす。
どこの国の飾りだろう?
秋爾は異国の少年から目が離せなかった。
湿気と怪しさに沈む夜の空気の中で、彼だけがいやに清冽で、異質に見えた。
引っ張り合いの勝負は女の勝ちのようだった。
女は地獄へ落ちろのハンドサインを掲げて店の前を足早に去っていった。
路傍の人間は物珍しそうにその行方を見送ったが、女の姿はすぐに闇へ消え、人々もまた興味を失った。いつもの公園、いつもの喧騒。秋爾もまた歩き出そうとした。
「おいお前。」
占い師の少年が言う。
「そこのお前。そう、お前だ。今『俺か?』みたいな顔をして俺を見た灰色の上着のお前だ。」
明らかに秋爾のことであった。
秋爾は戸惑いながらふたたび足を止めた。
「お前、見るからに『わたしは不幸です』という顔をしているな。おおかたつい最近職をなくして、その日暮らしをしながら明日のことを憂いておるのだろう。この先を知りたいと思わぬか。手を見せてみろ」
ひどく傲慢で礼を欠いた言い方だった。さっきの女が狂ったように怒りをあらわにしていたのも頷ける。
だが全て当たっていた。
なぜわかる?
訝しんで少年を見ると、彼と真正面から視線がぶつかり合う。
その瞬間、金縛りにあったように動けなくなった。
少年は帽子と分厚いコートに顔の大半が隠されていたが、唯一露出した眼はするどく、美しかった。瞳が街のネオンを反射し、黒のオパールのように光っている。
出会ってはいけない類の人間だ――きっとこいつにかまっても良いことは何一つない。一刻も早く立ち去らねばならない。
だが、強く見つめられたまま、足がすくんで動けない。
「聞こえているのか。手を見せろと言っている。占ってやるからそこに座れ。安心していい。ぼったくりではない」
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