十三.ハナ――丘

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 ハナは背中を振り返らず、ひたすら歩き続けた。  真っ暗な道すがら、ハナの頬に涙が伝う。  自分のせいだろうか。  自分が何か一つでも違うことをすれば――もっと早くに姉から離れていれば、姉に間違っていると言えていれば、秋爾は――あるいは姉は、ラズは、フダイは生きていただろうか。  秋爾も心中の朝、こんなふうに自分を責めたのかもしれない。  秋爾なら、今、何を考えるだろう。  木陰からは黒い影が数多く集まり、秋爾に手をかけようとしていた。同類だと思っているようだ。  糸のような黒い煙を引きながら、数多の手が秋爾に伸びる。 「……退け。お前らとは違う、」  ハナはその手を振り払いながら、ひたすらに火を辿った。  全てに押しつぶされてしまいそうな中で、背にかかる秋爾の重みだけが、ハナを道のその先へ導こうとしていた。  やがて境目を抜け、異界の森に出る。  濡れた土の匂いがする。  小雨が降っていた。あたりは暗く、森は夜に沈んでいる。 「秋爾、ついたぞ」  ハナは背負った秋爾を木の根元に横たえた。秋爾は動かない。もう二度と動くことはないだろう。  ハナ自身も古い木の幹によりかかり、腰をおろす。どっと疲れが押し寄せてくる。  夜の森は低く優しい音で満ちている。煙霧がハナの全身を柔らかく打つ。  ゆっくりと空を仰ぐ。  霧のような雨粒が夜の僅かな光を浴びて、木々の合間で星くずのように光っていた。  時折吹く風が、その霧雨をあちらこちらへと動かし、雨粒は蛍のように気持ちよさそうにあたりをふわふわと飛び回った。  ハナはしばらくそうして、雨模様をぼんやりと見つめていた。  次第に雨は止んでいく。  湿った体が夜風によって冷え、指先がかじかんでいく。 ――動けるうちに、やれることはやらねば。
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