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ハナは一つ深呼吸をしてから立ち上がると、あたりから美しいと思う草や花を摘んで回った。
それらを束ね、冷たくなった秋爾の胸に添えてやる。
それから、薪になりそうな枝や松の実をいくつか集めて秋爾の周りに敷き詰める。
準備が整うと、最後にひとつ、秋爾の冷たい唇に口付けを落とした。
不思議な男だよ、とジューラザロに語ったのが、昨日のことのようだった。
優しい男だった。
その優しさにもう触れられないことをはっきりと感じながら、ゆっくり唇を離す。
その時ハナはふと、秋爾の胸のポケットに何かが入っていることに気づいた。
ハナの飾り紐だった。
ふたりでフダイの外へ逃げた夜、秋爾のためにその手に握らせておいたものだった。
クカの印。
カジャの火の見えるものだけがつけることを許される、特別な飾り。
ハナは少し迷って、それを秋爾の手首にくくりつけてやった。
彼がこの山で死んだのなら、境目で彷徨うことになる。そのときにせめて、カジャの火が見えていると良いだろう。
つけ終わると、手向けた花束に息を吹きかけて火を付けた。
真紅の炎が上がる。
弔いのための特別な炎だ。
その火はゆっくりと薪にうつると、静かに秋爾の身体を焼いていった。
火の勢いは次第に強くなる。
熱と光に包まれ、秋爾の体は黒い影となって浮かび上がった。
ハナはその様子を見つめながら、秋爾の身体が焼け落ちるのを待った。
炎と夜は長く続いた。
ハナは、眠りとも覚醒ともつかないおぼろげな意識でその炎を見続けた。
どれほど時間が経ったのか、やがて山は白んでいく。
夜明けとともに、雲の切れ間から漏れ出た朝日が地面を静かに照らす。
秋爾のいた場所にも光が差し込む。
少し眠っていたハナはその光のまばゆさに瞼を開けた。
そして一瞬、息をするのを忘れた。
横たわっていた場所に秋爾の姿はなく――秋爾はハナのすぐそばにいた。
眼の前で、炎に包まれたまま、立ってこちらを見下ろしている。
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