終.ハナ、あるいは秋爾――某山中

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――おおい。  続けざまに犬が吠えるような声がして、それが段々とこちらに近づいてくるようだった。  ハナは薄っすらと目を開けた。自分にまだ目を開けるだけの力が残っているのが不思議だった。  夢を見ているのかもしれない。  あるいはこれが、死後の世界というやつなのだろうか?  だがその割に、森の木々ははっきりとそこにあり、不快な湿度とたくましい生命の息吹がそこかしこに感じられた。  何かが足にふれる。  足元を見ると、利発そうな白い犬が息を荒くしながら尻尾を振っているのが見えた。  続けて森の奥からオレンジ色の服を着た男が姿を表す。 「見つけた! よくやったな、マリー!」  犬が嬉々として、ワン、と答える。  それから男は何か機械のようなものを口のそばに当て、暗号のような言葉をつぶやきはじめた。 「うん、いたいた。コウちゃんの言うとおりだったよ。今朝煙が上がってたっていう場所に、兄ちゃんが一人転がってる。見た感じ首吊りとかじゃなさそうだけどな。どうぞ。」  そういう間に、犬はハナの頬を舐めたり、鼻をくっつけたりして自由にしていた。生温い感触。脇腹がすこし痛む。  これは夢、ではなさそうだ。 「こらマリー! 兄ちゃんから離れな!――あ、今瞬きした! ――こちらリョウ、兄ちゃん生きてるぞ。ヘリ呼ぼうか。誰か通報してくれる? どうぞ。――じゃレージくんよろしく。――兄ちゃん、もう大丈夫だよ。今ヘリが来るからね、」  目まぐるしく繰り広げられる男と機械との会話に、ハナは一瞬、自分に何かを話しかけられていることに気づかなかった。 ――へりって、なんだ? 何が来るって?
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