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「おい、聞こえてる? 兄ちゃん、生きてるよな?」
生きている――のか?
自分は今、生きているのか?
男はハナのそばでしゃがんだ。
「しっかし、あんたも命拾いしたね。何があったか知らないけどさ。うちの会社の人が焚き火の煙見てなかったら死んでたよ。喋れる? 名前は? ……うわっ、腹に穴あいてんじゃん。参ったなぁ、猟師は穴開ける側なんだけど……とりあえず傷口押さえときゃいっかな?」
背負ったリュックの中身を探る男の横で、犬が嬉しそうにぐるぐると回っていた。
その向こうに、男の言う焚き火のあと――秋爾の燃えていたあとが黒く残っていた。
命拾い――。
どうして。自分など、拾ってどうするつもりなんだ。
こんな命、捨て置けばいいのに。
それでもハナの身体は次々と感覚を取り戻していく。
手当する男の手が冷たい。犬の息が臭い。つま先が、手首が、胸が、腹が、そこらじゅうが痛い。
耳元でぶん、ぶんという虫の羽音が聞こえる。
空には入道雲が湧き、異界の森が夏を盛りとする生命ごとハナを包みこんでいる。
間違いなくハナの身体は生きていた。生きたまま山の中に放り出され、痛い、苦しい、生きたいと猛烈に叫んでいた。
――お前みたいに生きていきたい、秋爾。お前みたいに――
どこかで鈴の音がした。
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