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*  初めて見たのは、入学式の日だった。一年生の受付担当として立っていたのが杉田先輩だった。  先輩で、私が名前を告げると柔らかく微笑んだ。 「永山(ながやま)こはくさんですね。ご入学おめでとうございます」  その瞬間、雷が落ちたような衝撃と同時に私は恋に落ちた。  今まで生きてきた中でめぐり会うことのなかった恋だった。  この人は誰? 誰? 名前は? どこに住んでいるの? なんでもいいや。この人だ、この人しかいない! 運命の人だ!  もう思考回路は暴走していた。  それから先輩が卒業するまでの二年間は、あの人だけを見ていたと言っても過言ではない。  目で追うだけならもう数えきれないほど追った。廊下や食堂や帰りの電車やもうありとあらゆるところで偶然、すれ違うだけでも嬉しかった。  でも、一つ年上の先輩は、当然のように、私より先に高校を卒業していく。  もう会えなくなってしまう! そんなことは耐えられない! そう思った私は意を決して卒業式の後に、杉田先輩に告白した。  春の土砂降りの日だった。  私の生涯最大の緊張の末に想いを伝えた結果は、ほんの少しの間のあとに砕け散る。 「ありがとう。でも、オレ、つきあってる人がいるから」  どこか申し訳なさそうな顔をした先輩の顔はキレイだった。振られてしまったというのに「カッコイイ……」と私は見とれていた。  それからどうやって帰ったのか、びしょぬれで帰ってきた私を見て弟は「なにやってんだ」と呆れ返っていて、次の日に私は39度の熱を出して寝込んだ。
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