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いま、私のお店に、あの卒業式の日以来、一度も会うことがなかった先輩が目の前に座っている。
なんで私のバイトしているお店に先輩がいるんだ?
先輩は東京の超がつくぐらい優秀な大学に行ったはずなのに? あ、いま夏休み? 帰省しているってこと? それより私がここで立ち尽くしているの変に思われてないかな?
一瞬でいろんな妄想が巡る。先輩は優しげな微笑みを浮かべながら言った。
「コーヒーのお替わりもらえますか?」
なんて甘美な言葉だろう。溶けて消えてしまいそうだ。
*
「……それって甘美かなぁ?」
夜に訪れたイタリアンカフェで、真野ちゃんは眉をひそめながら言った。
小学校から高校まで同じ学校の親友である真野瀬玲那は、「いかにも女の子っぽい名前が苦手」と名前で呼ばせてくれない子だ。
「え、え、え、えええ? なんで? 真野ちゃんにはわからない? この気持ち」
「1ミクロンもわからないなぁ」
冷めた態度で真野ちゃんは返し、マルゲリータピザを一つ手に取った。
地元に残る数少ない友人の真野ちゃんとは何かあるとすぐにこうして会っている。
「先輩が卒業してから1年半近く振りに再会した、自分のバイト先に偶然お客さんでやってきた、こんなすごいことないでしょ? こんな偶然すごくない?」
「そりゃあ富山にカフェが何店舗あるかは知らないけど、町の中を歩けばどこかには行くよね? たまたま来ただけでしょお?」
「でもその何店舗の中から選ばれたんだよ? まさかの私がバイトしてる店に!」
「でもさぁ」
ハイテンションな私を真野ちゃんが止める。
「でも……何さ?」
「先輩はあんたが『永山こはく』だってことに全く気付かなかったんでしょ?」
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