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 痛いところを突かれた。  そうなのだ。  杉田先輩は、私の存在に全く気付いていなかった。  私は声を大にして「永山こはくです!」と叫びたかった。  しかし、先輩は私のことなど覚えていないかもしれない。同じ高校の女子で先輩に告白した女子は一人や二人ではない。  何なら卒業式の日に告白したのだって、私以外にも何人かいたらしい。  その他大勢と扱われて忘れられていても仕方がない。 「まぁ……覚えられてないほうが幸せだったりもしない?」 「ええ? なんで? なんで?」 「いや……こはくって杉田先輩の半分ストーカーみたいだったしさ。気持ち悪い子いたんだよなって覚えられてても嫌でしょ」  半分ストーカー……だとぉ? 「別にストーカーなんかしてないよ? 教室の窓から見たりとか、廊下ですれ違ったら振り返って『先輩どこに行くのかなー?』って目で追ったり、食堂で何をおひるごはんに食べてるのかなーって見たり、体育の授業でビブスで着てたのが4番だったら『私も次の体育で4番着よう』とか、髪を切ってもかっこいいなーって思ったりとか、先輩の入る委員会をちょっと別の先輩に聞き出したりとかー、もし結婚したら『私、杉田こはくになるのかな? 響き悪くない感じ?』って考えたりとか……」 「うん、完全ストーカーだね」  私の話を遮り、呆れる顔すら見せずに真野ちゃんは淡々と言った。 「高校時代とかあんたの世界の中心には、杉田先輩しかなかったからね。まさか19歳になってもその思いを聞けるとは思わなかったよ」 「はいぃ?」 「その妄想癖、何十回も聞いたかなぁ……今でも脳内でつきあってるとか思い描いてたら怖いよ」 「そんなに引くことかなぁ……」 「あんたを見てると『恋する女は盲目』ってよく理解できるね。振られて大泣きしてたのに1年以上経っても、まだ同じ恋に浮かれてられるのも賞賛に値するね」 「そ、そこまで言わなくても……」 「高校んときだってさー、杉田先輩を好きで好きで好きすぎて別の子みたいになってたじゃん」 「別の子? そんなことあった?」  私は私だよ、と言いたかった。 「先輩の好きなアーティストの曲を片っ端から聴きはじめたり、こはくはルールもまともにわかってなかったのにサッカーのスペイン代表を所属チームまで覚えたり、先輩の好きな女優っぽい髪型にしたり」 「そ、その辺でいいかな……」  私が両手で自分の前で壁を作り真野ちゃんの指摘を止める。 「もう趣味も服装も言葉遣いも友達も全部何もかも変えちゃったでしょ。それぐらい恋に溺れてた」 「ええ、さすがに友達は変えてない。真野ちゃんは昔からずっと友達でしょ?」 「私はともかくさ、先輩と同じ中学の子たちに近寄ってったりしたじゃん」 「そ、そうだったかな……。先輩のこと、んだよ」 「ちがうと思うなー」  真野ちゃんは首を横に振る。 「こはくは、杉田先輩のこと、んだよ」  う。  絶句、とはこのことか。  ぐうの音も出ない、とはこのことか。
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