3

3/3

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
* 「ケーキの箱を握り潰さなかった自分を褒めてあげたいね」  私の言葉に真野ちゃんは「そっかー」と言いながらオニオンフライを手に取った。ハワイアンレストランは周りがガヤガヤとうるさい。 「でもさー、今までだって先輩に彼女がいたことはあったでしょ。そんなことでショック受けるほど若くもないでしょ」  それは真野ちゃんの言うとおりだった。  先輩に彼女がいたのは、もちろんこれが初めてじゃない。高校時代に私が知っているだけでも何人かいた。 「でもね、今回のは割とショックだった」  私が言うと「何を今更」と真野ちゃんが呆れた表情を見せた。 「恥ずかしそうな顔したんだよ」 「はい?」 「先輩がね」 「話が見えないんだけど」  先輩が私のバイト先のお店に来てたのは、近くにある車の教習所で彼女が教習を受けているからだった。その時間潰しに来ていただけだった。もちろん私に会いにきていたわけではなかった。 「恥ずかしそうな顔で彼女のためにケーキを買っていったんだ。彼女のためにね。そのときの表情は私が見たことない表情だった」 「……だから?」  私はテーブルに顔を突っ伏した。「どしたの?」と頭の上から真野ちゃんの声が聞こえた。 「私、先輩のことを何でも知ってる、そう思ってた。一番知っているのは私だと思ってた。でも、あんな表情(かお)みたことなかった。彼女のためにあんな表情を見せる……自惚れてたんだよ、私は。今度こそダメかな」 「そっか」 「いや、でも、もしかしたら、まだ未婚なら勝ち目があるのかなーとか少しだけ思ってたりなんかして……」 「いや、ないでしょ」  鋭い刃で切られた気分だった。でも、「違う」と否定できる要素もなかった。 「うん…………そう…………かぁ」 「そろそろ現実に帰ってきてよ」 「うん、ありがとね」  「感謝されることは言ってないよ」と真野ちゃんは苦笑した。  こうやって妄想癖の私を現実に繋ぎとめてくれる超現実派(私が創った用語)の真野ちゃんの存在は本当にありがたいと思っている。  でも、私は杉田先輩のことが大好きなんだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加