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 電車を降りると雨が止んでいた。  改札口を抜けて空を見上げると濁った色の雲と澄んだ色の雲が混ざって見えた。  ゆっくりと歩く。  ゆるやかな下り坂を歩きながら、ふと足元を見ると、アスファルトは雨で濡れて真っ黒だった。  坂の下まで真っ黒な道が続いていた。  黒で上書きされているみたいに見えるけど、時間が経てば、乾いてアスファルトの色に戻るんだろう。  もしかしたら私がいま忘れようと記憶の中で杉田先輩を黒く塗りつぶしてしまっても、時間が経てば、また思いは戻ってきてしまうんだろうか。  思えば、先輩が高校を卒業してから1年半余り、24時間365日ずっと先輩を思っていたわけではない。  思いが眠っている時期だってあったのに、それがまたこの夏また復活している。  この先、もっと時間が流れたら、先輩のことを忘れられるのかな。  何事もなかったかのように生きていけるのかな。そうなれれば幸せなことなのかな。  この思いを全部、黒く塗りつぶして上書きしちゃった後も、私は私でいられるのかな。  そんなんで私は未来の私はそれで幸せのかな。  そんなの嫌だな。  忘れること、それが本当に幸せなこと……なのかな?  どうして叶わなかった恋は忘れなければ生きていけないんだ?   「全部、忘れちゃうなんて嫌だー!!」  叫んだ。  私は下り坂にむかって叫んでみた。    誰も歩いていなかった。  遠くの誰かは私の声を聞いたかもしれない。  でも、誰も何も返してはくれなかった。
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