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大垣のガチ料理
週が開けてさっそく予定のランチ会の誘いがきた。
「日向子さん、行かないんですか?」
てっきり行くはずだと思っていた日向子の返事にがっかりした。それを知ったのが当日だったからだ。
「断った。私が行くと皆が気を使うからな。目的は大垣なのだから、特に問題ないと思うが?」
「おかず、いらないんですか?俺のやつ」
「うむ。皆に存分に食べてもらえ。喜ぶぞ、とても旨いからな。私は握り飯がある」
「そうですか・・・」
フロアを出ていく大垣の肩は、心なしかいつもより下がっているように見えた。
皆が集まったのは別のフロアの社員用休憩スペースで、テーブルや自販機、ベンチなどがおいてある。
そのテーブルに大垣と山本を含め男女5人が集まった。
「これ、せっかくなんで作ってきました。みなさんでどうぞ」
大垣がお重のふたを開けると、わぁっと歓声が上がる。
「派手なものは苦手なんで、こんな感じですけど」
「やばい、大垣君ガチじゃん。これってお母さんとかおばあちゃんとかが作るレベルじゃね?」
「ほんとだ、ゴマ和え?これ」
「白和えです。インゲンの白和え。豆腐です」
「これは?あ、えーと、つくね?」
「真薯です。蒲鉾とかはんぺんに近いですが、今日は海老とかじゃなくて鶏でやりました」
卵焼き、カジキ味噌漬け焼き、青物お浸し、そして山菜おこわの小さめのおにぎり。どこぞの奥方が行楽に作って持ってくるような品書きに、皆は唖然とする。
「大垣さん、何者?」
「ただの料理好きですけど」
おそるおそる手を伸ばし、大垣の料理を食べはじめた。
「優しい味だね。このくらいが好みなの?」
「そうですね。俺だけのときはもう少し薄めです。今日は皆さんにと思ったのでいつもよりちょっと濃くしました」
「おいしい。なんか懐かしい」
「俺はこういうの、初めて食べるかも」
「インゲンをメインで食べること無かったなぁ」
「おこわ炊く男子はじめて見たわぁ」
「ほんと、こんなんで育っちゃったんで、外食すると口ん中が痛くなるから、それはそれで不便ですけどね」
「彼女とか大変そうだね」
「まあ、良いのは最初だけで、お爺さんみたいって、フられてばっかですよ」
そうしてランチは和やかに終わった。結局それ以降は会が継続する様子もなく、大垣はまた日向子の隣で食べることになった。
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