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「ランチ会とやらはもう良いのか?」
「あぁ、はい。俺の料理は同世代にはあんまりウケないんで。こんなモンですよ」
「そうか。皆、愚かだな。こんなに旨いものを食わせてくれるのに。しかし、そのおかげでこうしてまた、私が良い思いができているのだな」
「お・・・ぅ」
急な一言に大垣は動揺する。
「どうした?顔が赤いぞ、具合でも悪いのか?」
「いえ、大丈夫です。お気になさらず」
「そうか。あ、そうだ、味噌が入っていたあの重い入れ物を返そうと思うのだが、帰りに寄ってもらえるとありがたい」
「もう無くなったんですか?」
「ああ、旨いからな。味噌汁を自分で作ることにしたぞ。最近は少し上達した」
二人はその日の帰りに日向子の家に寄る約束をして、昼休みを終えた。
駅までの道を少し間をあけて並んで歩く。大垣は昼からソワソワして落ち着かない。
そんな彼を日向子は不思議そうに見る。どうも調子が狂うな、と、日向子もまたソワソワしてしまう。
そして電車に乗ると、やはり日向子の眉間は少し深くなるのだ。
「日向子さん、座りますか?次で結構空きますよ」
「いや、ここで良い。座ると面倒だ」
入り口近くの手すりに掴まり、足を肩幅に開いた状態で少し前後にズラしている。前方をにらむようにして立つ日向子は、剣道や柔道のように間合いを詰める選手みたいだ。
(これでよく毎日乗れてるなぁ・・・)
人の流れで押されないように、大垣は日向子のすぐそばで盾のようにして立った。
最寄り駅に着き家までの道は小さな商店街になっていた。そこからすこし横道にそれたあたりに日向子の住むマンションはあった。外の門から入り口までは広くあいている。入り口の自動ドアの横にはオートロックの操作盤。テンキー、シリンダー、モニターが搭載されていた。
「セキュリティー、すごいですね」
「うむ。退院してから実家にいろと言われたが無理を言って独りで住んでいる。心配した母がここに決めたのだ。贅沢にも程があるが、仕方がない。これで安心するなら、そうするしかない」
エレベーターに大垣を乗せて3階を押すと、降りたら待つように告げ、出て行った。
呆気にとられた大垣はそのまま3階へ。
すると一呼吸あとにすぐ横の扉が開いた。
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