日向子の秘密

3/6

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
結構本気なんです。困ったことに・・・ 大垣の言葉を日向子(の中の侍)は遮った。 「待て待て、そのことだが、よく考えろ。このおなごの中身は男だぞ。ま、まあ、男でもそういったことは可能ではないが。この世でも、その、あるのか?男色というか、あれだ、念者のような者が、それが普通なのか?」 「んー、ん・・・そうか。そうなるのか。うーん。ちょっと待って。俺の気持ちはどういうことなの?日向子さんの性格とか生き方的なところに惚れたってことは、男の、侍の、貴方に惚れてるってこと?」 「そうなるな。お前がそうならそれなりの返事の仕方があるが」 「違いますね。この世も男同士とかは、まあ、ありますけど、俺は女の人しか無理っていうか、今まで男の人とは無かったので」 「うむ、ならば済まぬが、お受けできぬ。諦めてくれ」 「ん、じゃあ、俺、男も大丈夫って言ったら?」 「済まぬが私はそのようなことは断っているのでな。諦めてくれ」 「待て待て、なぜ貴方が答える?」 「あのな、大垣殿、よく聞け。この体は私が一時預かっているのだ。勝手には出来ぬ」 「おー・・・なんか腑に落ちない。日向子さんなのに日向子さんじゃないっていう。ちょっとお待ちください、一旦整理します」 「よいぞ」 腕組みをした大垣はウンウンうなって眉をしかめている。そして急にハッと顔を上げた。 「中身、男なんですよね」 「そうだ」 「でも外身は日向子さんですよね?」 「くどい」 「え、じゃあ、ど、どうしてるんですか?生活とか、着替えとか、日々の、いろいろな・・・」 「それが一番苦労の種であったな」 ニヤっと口を引き上げて遠くを見る日向子(中身は侍)をみる大垣は頭をかきむしっている。 「大変だが、どうだ?抜かりなく、ほれ、この通りじゃ」 「あぁ!この無礼もの!日向子さんの体に変なこと・・・」 「するわけ無かろう。必要最低限だ。この時代の常識にあわせるのには苦労したが、幸い情報はあふれておるし、日向子の母上はとても出来たお方でな、おなごの体の手入れの仕方は心得たぞ。すべて教わった。どうだ?立派なもんだろう?」 「ぐぬう・・・」 握った拳はちゃぶ台の上でカタカタと揺れた。 「なんだその目は、私が預かっている限り、この体には触れさせぬぞ。覚えておけ、大垣」 「納得できねぇ・・・」 大垣はうなだれた。 すまなそうな顔をしてその姿を見た日向子(の中の侍)は、姿勢を正し向き直り手をついた。 「大垣殿、本当に信じてもらえるかどうかはわからぬが、私はお主を信用している。だから話した。申し訳ないがこの心と体は借り物だ。このおなごに返すまで、私の勝手には出来ぬのだ。わかってくれないか、頼む」 しばしの沈黙の後、大垣は立ち上がると琺瑯の容器を持って帰る支度をした。 「すいません。俺、帰ります。味噌汁ごちそうさまでした。おじゃましました」 そして俯いたまま出て行った。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加