5人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
結構本気なんです。困ったことに・・・
大垣の言葉を日向子(の中の侍)は遮った。
「待て待て、そのことだが、よく考えろ。このおなごの中身は男だぞ。ま、まあ、男でもそういったことは可能ではないが。この世でも、その、あるのか?男色というか、あれだ、念者のような者が、それが普通なのか?」
「んー、ん・・・そうか。そうなるのか。うーん。ちょっと待って。俺の気持ちはどういうことなの?日向子さんの性格とか生き方的なところに惚れたってことは、男の、侍の、貴方に惚れてるってこと?」
「そうなるな。お前がそうならそれなりの返事の仕方があるが」
「違いますね。この世も男同士とかは、まあ、ありますけど、俺は女の人しか無理っていうか、今まで男の人とは無かったので」
「うむ、ならば済まぬが、お受けできぬ。諦めてくれ」
「ん、じゃあ、俺、男も大丈夫って言ったら?」
「済まぬが私はそのようなことは断っているのでな。諦めてくれ」
「待て待て、なぜ貴方が答える?」
「あのな、大垣殿、よく聞け。この体は私が一時預かっているのだ。勝手には出来ぬ」
「おー・・・なんか腑に落ちない。日向子さんなのに日向子さんじゃないっていう。ちょっとお待ちください、一旦整理します」
「よいぞ」
腕組みをした大垣はウンウンうなって眉をしかめている。そして急にハッと顔を上げた。
「中身、男なんですよね」
「そうだ」
「でも外身は日向子さんですよね?」
「くどい」
「え、じゃあ、ど、どうしてるんですか?生活とか、着替えとか、日々の、いろいろな・・・」
「それが一番苦労の種であったな」
ニヤっと口を引き上げて遠くを見る日向子(中身は侍)をみる大垣は頭をかきむしっている。
「大変だが、どうだ?抜かりなく、ほれ、この通りじゃ」
「あぁ!この無礼もの!日向子さんの体に変なこと・・・」
「するわけ無かろう。必要最低限だ。この時代の常識にあわせるのには苦労したが、幸い情報はあふれておるし、日向子の母上はとても出来たお方でな、おなごの体の手入れの仕方は心得たぞ。すべて教わった。どうだ?立派なもんだろう?」
「ぐぬう・・・」
握った拳はちゃぶ台の上でカタカタと揺れた。
「なんだその目は、私が預かっている限り、この体には触れさせぬぞ。覚えておけ、大垣」
「納得できねぇ・・・」
大垣はうなだれた。
すまなそうな顔をしてその姿を見た日向子(の中の侍)は、姿勢を正し向き直り手をついた。
「大垣殿、本当に信じてもらえるかどうかはわからぬが、私はお主を信用している。だから話した。申し訳ないがこの心と体は借り物だ。このおなごに返すまで、私の勝手には出来ぬのだ。わかってくれないか、頼む」
しばしの沈黙の後、大垣は立ち上がると琺瑯の容器を持って帰る支度をした。
「すいません。俺、帰ります。味噌汁ごちそうさまでした。おじゃましました」
そして俯いたまま出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!