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部屋に残された日向子の姿の侍は、閉まったドアを見つめたまましばらくその場を動かなかった。
「呆れられてしまったようだな。許せ日向子、今はこれが私の精一杯だ。しかしなあ・・・」
胸がチクリとする。
「お前の心の内はどうなっておる。これ、この通り、教えてくれ。私は、本当はどうすればいい・・・」
胸のチクチクは、治まるまで少し時間がかかった。
キッチンに立ち、食器を洗っているとインターホンが鳴った。
モニターをのぞくとそこには大垣が写っている。
あれから1時間半ほどたったころだった。
「どうした、忘れ物か?」
(味噌、持ってきました。おかわり)
「どうして」
(あの、もう一回ちょっと話せませんか)
「わかった、入れ」
ロックが解除され自動ドアが開くと、大垣はすぐにエレベーターのボタンを押して乗り込んだ。
「あの男、やはり気が違っているのか」
しばらくするとまた日向子の家のインターホンが鳴る。玄関ドアを開けると、袋を持った大垣がたっていた。
「なぜだ。呆れて帰ったのだろう?こんなおかしな者の戯言につき合う筋合いはない。無理するな」
「これ、味噌。おかわり持ってきました」
大垣は部屋へはあがらずに玄関で話を始めた。
「俺は、貴方の話を信じたいです」
「そうか・・・」
「日向子さんに返すまでって、あれはどういう意味ですか」
「言葉通りだ。一生このままというのも考えにくい。実際私の記憶も薄れているし」
「だったら。だったらそれまで友達として一緒にいることは可能ですよね」
大垣の目はまっすぐに日向子を見ている。
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