5人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
はあ、とため息をついて日向子(の中の侍)が大垣に聞いた。
「おまえ、年はいくつだ?」
「二十六ですけど」
「ふん、立派な大人の男がおなごと友になるというのか?やはり頭がおかしいのではないか?出来るわけ無かろう」
「出来ます。だって貴方中身男でしょ?侍でしょ?おじいさんでしょ?」
「まて、じいさんではない。私は言うほど若くはないがじじいではない。そろそろ嫁を取るかどうかという年頃のはずだ。たしか・・・数えで二四か二五か。なんと、お前より若いではないか」
侍の年齢を聞いて大垣はまたソワソワした。
自分より若い男が日向子の体を乗っ取っている。日々の手入れも着替えもすべて男がやっている。
「大垣よ、日向子が心配か?」
「当たり前でしょう」
「だけど男と女では、友にはなれぬ」
「俺は今の日向子さんしか知らないんですよ。悔しいけど貴方になった日向子さんしか知らない。だから、今諦めるっていうのは出来ないです」
「そうか。でも私がこの中にいる限りは、それには答えられん」
「いいです。それで良いです。貴方がいなくなるのを待ちますよ。それか、もうどっちでも良いって思うようになるくらい貴方を懐柔します」
「何と、懐柔だと?そんなこと出来るわけがない」
「それはわかりませんよ。貴方は俺の作る料理好きでしょ?俺が友達じゃなくなったら俺の味噌も料理も全部無くなりますよ。良いんですか?」
「うーん・・・それは、ちょっと惜しい気もするなぁ」
「でしょ?それにまあ、俺がもし変な気を起こしても、勝てる気がしませんしね。殺されるかと思いましたよ、さっき」
大垣が手を取られて組み伏せられたのは、ほんの二時間ほど前のことだ。
「・・・それもそうだな。よし、承知したぞ、大垣殿。日向子を共に守る同士として、お主と友となろう」
駅までの道を歩きながら、大垣の顔はまだ少し曇っている。
「ああは言ったけど、これで良かったのか?」
(俺、馬鹿なのかな・・・)
最初のコメントを投稿しよう!