日向子の秘密

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はあ、とため息をついて日向子(の中の侍)が大垣に聞いた。 「おまえ、年はいくつだ?」 「二十六ですけど」 「ふん、立派な大人の男がおなごと友になるというのか?やはり頭がおかしいのではないか?出来るわけ無かろう」 「出来ます。だって貴方中身男でしょ?侍でしょ?おじいさんでしょ?」 「まて、じいさんではない。私は言うほど若くはないがじじいではない。そろそろ嫁を取るかどうかという年頃のはずだ。たしか・・・数えで二四か二五か。なんと、お前より若いではないか」 侍の年齢を聞いて大垣はまたソワソワした。 自分より若い男が日向子の体を乗っ取っている。日々の手入れも着替えもすべて男がやっている。 「大垣よ、日向子が心配か?」 「当たり前でしょう」 「だけど男と女では、友にはなれぬ」 「俺は今の日向子さんしか知らないんですよ。悔しいけど貴方になった日向子さんしか知らない。だから、今諦めるっていうのは出来ないです」 「そうか。でも私がこの中にいる限りは、それには答えられん」 「いいです。それで良いです。貴方がいなくなるのを待ちますよ。それか、もうどっちでも良いって思うようになるくらい貴方を懐柔します」 「何と、懐柔だと?そんなこと出来るわけがない」 「それはわかりませんよ。貴方は俺の作る料理好きでしょ?俺が友達じゃなくなったら俺の味噌も料理も全部無くなりますよ。良いんですか?」 「うーん・・・それは、ちょっと惜しい気もするなぁ」 「でしょ?それにまあ、俺がもし変な気を起こしても、勝てる気がしませんしね。殺されるかと思いましたよ、さっき」 大垣が手を取られて組み伏せられたのは、ほんの二時間ほど前のことだ。 「・・・それもそうだな。よし、承知したぞ、大垣殿。日向子を共に守る同士として、お主と友となろう」 駅までの道を歩きながら、大垣の顔はまだ少し曇っている。 「ああは言ったけど、これで良かったのか?」 (俺、馬鹿なのかな・・・)
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