男同士

2/5

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
昼の休憩時間に入り、フロア内がざわざわとし始める。 外へでるもの、休憩室へ移動するもの、屋上へ行くものなど思い思いに散らばっていく。 幾人かは自席で昼食をすます。 手持ちの仕事が残っているものや、交代で電話番をすることもあるから、フロアでは距離を置いて数人が残る。 大垣のチームは大垣と日向子が弁当持参組のため、留守番がすっかり定着した。 「日向子さん、今日はちょっと早く起きちゃったんでフルで作ってきたんです」 「おお」 「日向子さんいつものおにぎりでしょ?俺のお弁当と取り替えっこしませんか?」 「いいのか?しかし、さすがにこれを食べさせるのは気が引けるが」 「いいのいいの。俺おにぎり好きだし、おかずもちゃんと持ってきてるし」 大垣は少し大きめの手提げから弁当箱を二つ出した。一つは二段の小さなお重。もう一つは楕円形のわっぱ。 お重の方を日向子の前に置き、日向子の持ってきたおにぎりの包みを受け取った。 「中身、今日は何ですか?」 「塩と、味噌だ」 「さすが」 「味噌の方は焼おにぎりだ。ちょっとだけ進歩しただろう」 得意げな日向子の顔を横目で見る。 「じゃ、そっちもあけてみてください」 大垣が促すと日向子はそっとお重のふたを取った。そこにはみっちりと隙間無く詰められた煮物やお浸し、焼き物などが見える。そのお重の中身をうっとりと見つめた。 「これは・・・すごいな・・」 「家にあるやつで急遽作ったからアレですけど。ネットで調べて、貴方の時代のものに近いかもしれないと思って。でもね、お花見とかしか出てこなかったから。こんなんですけど」 「見たことあるような無いような・・・すまない、記憶が薄くて。でもとてもおいしそうだな。食べて良いか?」 「はい、どんどん。遠慮なく」 大垣は少しだけ肩をすぼめた。 日向子が日向子として戻ることを期待しながら、その中にいる男が気の毒に思えてならない。慣れない世界でどうやって生きてきたのか。 「大垣、お前はやさしい男だな。どうか、気を使うな、普通で良い」 いただきます。 手を合わせてから、日向子はお重に箸をつけた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加