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「ゴボウとかレンコンとか見た目は地味ですけど、こういうのはけっこう得意なんです。あとは、白身魚を蒸したやつでしょ、これはカレイでやるみたいですけど、うちに無かったので鯛でやりました。あ、卵もありますよ。山芋入れてフカフカです。さすがに生モノは無理なので、寿司はやめて豆のおこわにしました。ちいさく握ってあります」
言われるままに次々口に入れる。
目を丸くしたり、ウンウンと頷いたり、くるくると変わる日向子の表情を見ていると、昨日のやりとりが嘘のように思えてくる。
「お前、こんなことをしていては私がこの体から出ていけなくなるとは思わんのか?」
「まぁ、そうかもしれないですけど。それはそれ、これはこれです」
「おかしなやつよ」
「良いじゃないですか。だって、無理に追い出そうと思ったって、俺にはどうすることも出来ないし」
「まあ、そうだが・・・」
「それより、懐かしいやつありましたか?」
「うーん、それがな、わからんな。でも、ゴボウとレンコンは馴染みがあるな」
「そっかぁ、よし、また調べて色々やってみますね」
「気を使うなと言っただろう」
「いいえ、これは俺の趣味なので。止めないでくださいね」
日向子はあきれた顔で笑い、また箸を進めた。弁当の残りをすべて平らげ、隣で焼おにぎりを食べる大垣を満足そうな顔で見ていた。
その日以降大垣は、調べた情報から一品作っては弁当のおかずに忍ばせて来るようになった。以前は自分の得意料理だけだったが、今は「これどうですか?」と日向子に味見をさせている。
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